京都地方裁判所 昭和52年(ワ)1193号 判決
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【説明】
本訴は昭和四二年三月、当時中学二年生であつたXが京都市内を歩行中、駐車していた貨物自動車のプロパンガスボンベが三回にわたつて爆発し、顔面、両前腕、手拳、両下肢等全皮膚面積の四〇パーセントにわたつて熱傷を受け、一時は生命が危ぶまれる重傷を受けたため、その貨物自動車に高圧ガスである液化石油ガスを許容量以上に過充填したプロパンガス会社Y1とその従業員Y2Y3Y4に損害賠償を請求した事件である。
これに対しY1らは本件事故の原因はプロパンガスの過充填にあるというより過充填であつても安全弁が正常に作動しておればこの爆発は発生しなかつたのである、充填業者は当時法規上この安全弁の作動を点検する義務がなく泥等が付着した場合正常に作動しない安全弁を作つた業者やそれを指導しなかつた国に責任があると主張して争つた。
本判決は、本件事故はプロパンガスの過充填と容器の安全弁の故障が原因である、液化ガスが容器に充填された場合、常温では液化ガスの気相部と液相部が混在し、温度が上昇しても気相部のある間は爆発に至らぬが、ある温度以上になるとこの圧縮が極限迄進行し容器には液体のみとなり圧力が上昇し容器が破裂する可能性が高くなること、過充填の場合は低温で液体が容器内に充満し圧力が上昇し破裂を招くので過充填が禁止されていること、安全弁は気相部のガスを放出するため液相部が入つた熱量に応じて蒸発し温度上昇を防ぎ、破裂を防止するが、急速に液封状態に達する場合には安全弁から液体のガスが噴出し、温度上昇が妨げられず液体膨張が継続し容器の破裂を来すので安全弁があつても過充填が危険を除くものでないといつてY1らの主張を斥けXに総額八一七万一二八九円の賠償を命じた。
プロパンガスの過充填と安全弁の関係を説明した判決である。
【判旨】
二事故原因、および被告らの過失について
被告河西が被告上原成商事の従業員で当時同社西大路給油所(中京区西ノ京上合町一九番地)に勤務し、同給油所に併設された訴外京滋会社西大路ガススタンドの液化石油ガスの販売業務に従事していたが、訴外長谷川勝弘が本件爆発事故をおこした貨物自動車の液化石油ガスの充填をして貰いに同所に来た際、高圧ガス取締法に基づき、液化石油ガスを燃料とする前記自動車に設備してある容器(K30A118)に、容器証明書に記載された高圧ガスである液化石油ガスを充填するにあたり、法定除外事由なく最高充填許容量38.44キログラム(同証明書に記載された内容積充填許容量は71.5リツトル)を1.8キログラム超過する40.24キログラムの液化石油ガスを充填した事実は、充填した日を除いて当事者間に争いがなく、<証拠>によると被告貞包も当時京滋会社の従業員で被告河西と同じく前記ガスの充填作業に当つていたこと、この充填をした日は昭和四二年三月二五日であつたことが認められ、又<証拠>によると本件事故は前記過充填、及び爆発した容器の安全弁の故障が原因で生じたものであることが認められる。
即ち高圧ガス取締法四八条二項、八一条三号、容器保安規則(昭和四一年通商産業省令五〇号)四五条によれば、液化ガスを容器に充填する場合、容器証明書又は刻印に示された容器の内容により計算される質量以上に充填してはならないこと、液化ガスが容器に充填された場合常温では液化ガスの気相部と液相部が混在し、温度が上昇しても気相部のある間は、容器内の圧力はその温度における飽和蒸気圧となるのみで圧力上昇は僅かであるが液体と気体の圧縮率の違い等から、温度の上昇に伴い膨張した液相部が気相部を圧縮することになり、ある温度以上になるとこの圧縮が極限迄進行し、容器内は液体のみで占められることとなる。この段階に達すると液体の圧縮率が膨張係数に比べかなり小さいため圧力が著しく上昇し容器が破裂する可能性が高くなること、以上の事実は過充填の有無如何に拘らず存在するが、過充填の場合は低い温度で液体が容器内に充満することとなり容易に容器の耐圧試験圧力まで上昇し容器の破裂を招く虞があるため過充填が禁止されていること、安全弁は気相部のガスを放出することにより液相部が入熱料に応じて蒸発し蒸発潜熱が奪われて温度上昇が防げられる容器の破裂を防止できるのであるが、急速に液封状態に達する場合には、安全弁から液体のガスが噴出し、温度上昇が防げられず液体膨張が継続し容器の破裂を来すので安全弁が装着されていても過充填が危険を除くものでないこと、本件の場合は過充填の上に安全弁が付着した泥等に防げられて作動しなかつたため容器が爆発して事故の発生となつたこと、このため京滋会社は高圧ガス取締法違反罪で罰金三万円に処せられたことが認められるので被告河西同貞包は液化ガスを過充填してはならないのにこれを過充填した過失があるので民法七〇九条により、同被告らは京滋会社のための業務に従事中本件事故を起したものなるところ被告上原成商事が京滋会社を吸収合併したことは当事者間に争いがないので被告上原成商事は民法七一五条一項により被害者に生じた損害を賠償すべきものといわねばならない。
但し被告堀については<証拠>によると前記ガソリンスタンドの現場責任者であつたことは認められるものの原告主張のように高圧ガス取締法に基づく丙種化学主任者免状を有する者の代理者として被告河西、貞包の監督者で本件のように過充填させてはならない責任があつたという証明がないので同被告に対する請求は容るゝに由ない。
(菊地博)